とかく「年のせい」にされがちなお年寄りのボケ症状。
単なる老化現象なら心配ないのですが、認知症の始まりということもあります。
それぞれの違いを知っておきましょう。
≪ぼけという言葉をどんな場合に使う?≫
「うちのおじいちゃん、このごろ、物忘れがひどくなって・・・・・・年でぼけたのかな?」。
ぼけという言葉は、よくこんなふうに使われます。
ただし、ぼけというのは通俗語ですから、医学的な定義はありません。
いろいろな使われ方をされますが、知的な機能をあらわす意味としては、
次のように分けて考えられるでしょう。
(1) 脳や体の病気のために、知能が異常に衰えてしまった、認知症の状態をあらわす。
(2) 年齢とともに、ほとんどの人に出てくる知的な機能の衰え(ものわすれ、度忘れなど)をあらわす。
(3) (1)と(2)の意味も含め、漠然と頭の働きや感覚などが鈍くなっている状態をあらわす。
ここで気をつけたいのは、同じように見えても(1)と(2)のぼけはまったく違うものだということです。
人間の知的能力は、40〜50代のあたりまでは伸びつづけるとされますが、
その後はだんだん下降線をたどるようになります。
年をとれば、骨も筋肉も内臓も、体のさまざまな部分が衰えてくるように、脳の働きも低下します。
新しいことを覚えにくくなったり、物忘れしたりするのは、多かれ少なかれ誰にでも見られるもの。
病的なものではありません。
一方、(1)の認知症の場合、これは脳の病気です。
認知症は、医学的には次のように定義されています。
「いったんは正常に発達した脳の機能が、脳の障害で不可逆的に(元に戻らないこと)そこなわれていって、
記憶、思考、判断などの知的機能に支障をきたし、社会活動を営むことがむずかしくなっている状態」
認知症になっても、かつて持っていた「発達した知能」を一度にすべて失うわけではなく、
部分的に残している人は多いのです。
このことは、認知症の人を理解するうえで非常に大切です。
≪老化現象と病的なもの。同じ物忘れでも違いがある≫
いわゆる「年のせい」によるぼけは、健忘症と呼ばれる良性の「物忘れ」がほとんどで、
自然な老化現象なので心配はいらないものです。
やっかいなのは、老化による「物忘れ」と、認知症による悪性の「物忘れ」が、
初期のうちはあまり区別がつかないことです。
アルツハイマー型の認知症は、記憶の衰えで始まることが多いのですが、周囲にいる家族は、
おかしいと気づいても、認知症と認めたくないという心理が働き、
「年のせい」ですませてしまうことがあるかもしれません。
たとえば、冒頭に述べたおじいちゃんのようなぼけが、はたして「年のせい」なのかどうか。
周囲の人が早く病気を見つけるためにも、認知症と老化による健忘症との違いは
知っておく必要があるでしょう。
両者の違いは、ひと言で言うと「体験したことを覚えているかどうか」です。
ふつう私たちは、何を食べたか、その献立(内容)は忘れてしまっても、
食事をしたことまで忘れることはありません。
しかし認知症では、食べたという体験そのものがすっぽり抜け落ちて、
「まだ食べていない」と騒いだりすることもあるわけです。
それでも初期のうちは、忘れっぽくなっていると自覚し、不安に感じる人もいますが、
進んでいくと、忘れたこと自体忘れるようになります。
このように、認知症では、「物忘れ」がしだいに悪化していって、日常生活にも支障が出るようになります。
逆に老化による「物忘れ」は、多少は変化しますが、病的に進行することはありません。
単なる老化現象と認知症による記憶障害との違いは、下記のようになっています。
★「物忘れ」――老化現象と認知症の違い★
<老化の場合>
・体験したことの一部分を忘れる
・物忘れをしている自覚がある
・忘れっぽさは、あまりひどくならない(進行しない)
・日常生活には、差し支えない程度
<認知症の場合>
・体験したこと全体を忘れる
・物忘れしているという自覚がない
・忘れる度合いがふえ、悪化していく(進行していく)
・判断力の低下なども加わり、日常生活に支障が出てくる
「認知症・アルツハイマー病 より」